最近、方々で誤訳問題に関する意見を目にします。

例に漏れず、私もチラっと書いたことが…。
http://diarynote.jp/d/11610/20020512/

でね、昔、ある翻訳家さんが言っていた言葉が思い出されるのですよ。

「翻訳家は、作品を殺すことはできても、よくすることはできない」

あ〜、その通りだなー。
と感心したんですね。

つまり、すべての頂点にあるのは、原文の作品そのもの。
で、翻訳はあくまでも、それを理解したり楽しんだりするための助け、つまり「黒子」であるべきなんですよ。
翻訳が、作品以上の何かを生み出すことはないってことなんですよ。
それは、「翻訳」じゃなくて、「創作」だと。

でね、恐ろしいことに、翻訳は作品を殺すことだってできちゃう。
それは、誤訳であったり、情報過多だったり、また情報不足だったりするわけです。
まー、翻訳の巧い下手もあるでしょうけれど。
それでも、私の個人的意見ですが、(意訳がすぎて)
間違っているよりも、下手でもいいから作品世界を忠実に訳してほしい
です。

どーしても日本人には理解できないものが、日本にある何かに置き換わることは、
ある程度しょうがないでしょう。
でも、できるだけ、原文に忠実であってほしいのです。
変なひねりを入れるために原文を曲げるのであれば、
それは、「翻訳」じゃなくて「創作」なのですよ。
それに、「ひねり」を入れたお陰で「う〜ん、巧い」と思わず唸ってしまう作品って
そうは多くない。
むしろ、文脈でみたときに変なんですな。
(とは言いつつも、何気に『フレンズ』の翻訳は秀逸だと思う私)

ま、そんなわけで、最近、映画を観るときはできるだけDVDで観て、
英語字幕にしようと思っちゃうんですよ。
だって、日本語と原文があまりにもかけ離れていて
「げんなり」することが結構あるから。
「翻訳者、お前。何様のつもりじゃ!!」みたいなことが。
こんな思いするならば、辞書片手に観た方がマシじゃ、みたいな。

別に英語うんぬんの話じゃなくて、
作品を楽しみたいのですよ、私は。
だから、最近の誤訳騒動を見ると哀しくなるんですよ。

戸田奈津子さんばかりが糾弾されているけれど、
そして、確かに彼女は誤訳が多いけれど、
そもそもそれを許している映画会社が一番問題なのでは、と私は思っておりますの。

っていうか、確かに、正直言って、彼女の誤訳は目立つ。
もしかしたら、私は既に戸田さんを色眼鏡で見ていて、
ほかの作品よりも注意深く見ちゃうのかもしれないけれど。
そして、彼女の意訳がすばらしいせいなのかもしれないけれど、
心の中でストーリーがスムーズに流れているときに限って、
「あれ、なんかおかしいゾ」と思うことが多いのです。

例えば、『ロード・オブ・ザ・リング』の中でフロドがボロミアに言ったあのセリフ

「うそつき」

ってやつね。
あれは、私の心の中でカナーリ引っかかったのです。
映画館で初めて観たときからずーーーーっと引っかかってた。

普通、字幕を観ていると、英語のセリフは「役者の生声」としてだけ認識されて
英語そのものは聞いてないことが多いんだけど、
あのフロドのセリフは言葉自体がものすごく強かったから
英語としてスッと私の耳に入ってきたのですよ。
ところが、文字として目に入ってきた字幕とのギャップがあまりにも
激しくてものすごい違和感があったのです。

あの訳だと、ボロミアもひどい奴だけど、
フロドもめちゃくちゃひどい奴になっちゃう。
あそこでちゃんと、フロドが「ボロミアは指輪に取り込まれてる」ってことを
認識してるってことが分かんないと、その後のアラゴルンとフロドの会話が
生きてこないし。

あの映画を観ていて、一番共感したいのがフロドなのに、
フロドにボロミアを嘘つき呼ばわりさせたことで、一気に物語がうさんくさくなっちゃう。
「がんばれ、フロド!!」じゃなくなっちゃうわけですよ。
だって、「フロドはアラゴルンが好き」でも、「フロドはボロミアが嫌い」って話になっちゃったんだから。

って、エラい脱線しました。
えーと、コホン。
そうそう。
意訳のうまい戸田さんは、特に誤訳が目立っちゃうということで
ある意味損なのかも?
でも、あそこで映画会社がちゃんと二重チェックをしていれば、
あの誤訳は防げたんじゃないでしょうかねー?

ピーター・ジャクソンは、原作のファンを裏切りたくないと言って
作品を撮りました。
もちろん、話の順番を入れ替えたり、エピソードを削ったり足したりしてる
でしょうけれど、それでも最大限の努力をしたわけでしょう。
だから、彼の作品は受け入れられた。
それを、原作を読んでいない戸田さんに翻訳を頼むってのはどうなんでしょう?
確か、ご本人がそう言っていたと思いますよ。原作を読んでいないって。
(だから、第1部で、まだ生きてるボロミアのおとーちゃんを思いっきり
 殺しちゃったわけですな)

極め付けが、『ロード・オブ・ザ・リング』のキャスト来日時の記者会見ですよ。
通訳を担当した彼女は、キャストが「サウロン」と言ったところを「ソロモン」と訳したのです。
正直、「そりゃーねーだろー」と思いましたよ。

でもね、考えていただきたい。
もし、私が彼女だったら。
通訳をやっていて、映画が三度の飯より好きだったら、
大作映画のキャストとクルーが来日するって聞いたら、
そりゃーその仕事を請けますよ。
だって、すごいチャンスだもん。
(まー、あれだけの大作の仕事を、原作も読んでないのに請けるってのはどーかと思うけどね。正直)
だけどね、そこで適切な人事を行うのが映画会社の仕事じゃないですかね?
むしろ、それをできなかったところで、映画会社としての実力を疑われるのも仕方ないのでは?
彼女も問題だけど、なんでもかんでも彼女に仕事を頼む映画会社も映画会社なんじゃないですかね。

例えば、実力のある編集者って、結局、企画にあったライターさんを
見つけ出すことができる人。
持ち駒が多くて、しかも企画に適切な人に書いてもらえる人のことを言うわけじゃないですか。
それには、時には人を育てることも必要だろうし、人を発掘することも必要なわけでしょう。

もし、映画会社がそういうことはしないのであれば、
そんでもって、翻訳の間違いを指摘されても直さないってんであれば、「怠慢」だと言われても仕方がない。

映画ってのは、娯楽なんですよ。
だから、生活には不可欠ってわけではないのです。
でも、みんな、そこに金払って観にいくわけじゃないですか。
定価で1800円も取っておきながら、誤訳はさせほーだいってんなら、
映画会社は観客を舐めてるとしか思えない。

……あれ。
なんかちょっとヒートアップしちゃったみたい。
それに、昔、こんなこと書いてたみたい。
http://diarynote.jp/d/11610/20001112/

っつーわけで、長くなったうえに話があっちこっちとんでるので、ここらで終わりにしたいと思います。
全然「一言」じゃなかったな。(笑

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